ミーナの行進


 小川洋子さんの『ミーナの行進』読了しました。ミーナの行進


 1972年から73年にかけての1年間
芦屋の親戚の家で暮らすことになった主人公の朋子と、
その家に住む女の子、美奈子(ミーナ)の物語。


 ピカピカのベンツ、かつては庭に動物園があったという大きなお屋敷
ハンサムな伯父、透きとおるような肌をもつミーナ、仲の良い家族・・と
芦屋の家は、幸せで温かな空気に満ち満ちています。


しかし、現実が失われているからこそ、私の思い出はもはや、なにものにも損なわれることがない。心の中では、伯父さんの家はまだそこにあり、家族たちは、死んだ者も老いた者も、皆昔のままの姿で暮らしている。繰り返し思い出すたび、彼らの声はなおいっそういきいきとし、笑顔は温もりを帯びる。

 でも、最初の方に書かれるこんな記述のせいで
ほのぼのとしながらも、この幸福が破られるような事件が起きるのではないか・・
とどこか安心できないような気持ちで読み進めていくのですが、
さすが小川洋子さん!そんなありきたりな展開ではなく
最後は予想と違ってちょっと意外なエンディングでした。


 全体的には、ささやかな日常の出来事が丁寧につづられた物語。
なつかしくて、温かいエピソードが盛りだくさんで
今までの小川さんの作品とはちょっと違う印象です。


 また、途中沢山挿入されている挿絵もすごく素敵。
表紙に描かれている「流れ星・ドイツの家・オリンピック・カバ・天使の羽」が
どれも物語のエッセンスとして登場するものだということに
読み終わって気づきました。