いつか王子駅で


 堀江敏幸『いつか王子駅で』読了しました。

 いつか王子駅で (新潮文庫)

 久々の堀江作品でしたが、この方の文章ってほんと味わい深いですよね。
普通だったら違和感を覚えるはずの長い文章も、
するすると頭に入ってくるから不思議です。


 時間給講師をしている主人公の私と
偶然知り合った人々との交流を中心とした物語。
王子駅周辺の細々とした街の様子や、
主人公がさまざまに思いを膨らます回想部分など
日常生活を淡々と語っているようで、膨らみのある物語です。

 

 もちろん探して簡単に見つかるものなら苦労はいらないだろうが、退屈な日常をいかに反復すべきかをみずからに問いかけるとき、都電沿いを歩いたり荒川べりで野球を観たり図書館でひがな一日本を読んだり王子にモノレールを招致しようなんぞという埒もない空想にかまけたりしながらも、畢竟、こうした「子供心に似たほのかな狼狽」を日々感じうるか否かに、大袈裟だが人生のすべてがかかっているとも思うのだ。


 途中、さまざまな文学作品に思いをめぐらす場面が沢山あるので
知っている作品があれば、また味わい方が変わるのかも。
唯一『スーホの白い馬』のことは懐かしく思い出しました。

 スーホの白い馬 (日本傑作絵本シリーズ)