須賀敦子全集第1巻


 11月初旬のこと。
偶然に『イタリアへ・・須賀敦子静かなる魂の旅』という番組を見て
初めて須賀敦子さんのことを知りました。


 イタリア北部の国境付近にあるトリエステという街を
須賀さんの著書の朗読を沢山盛り込みながら巡っていく内容。
トリエステの坂道』という本からの朗読だったのですが、
その文章の奥深さに珍しく「おぉ〜」と感動してしまって
これは絶対本読まなくては〜という思いでいっぱいになりました。


 調べてみると、沢山著書は出ていて
ちょうど全集が文庫になっていたのを見つけて早速購入。


 須賀敦子全集 第1巻 (河出文庫)


 「ミラノ霧の風景」「コルシア書店の仲間たち」「旅のあいまに」の3篇収録。
どれも須賀さんがイタリアに滞在した頃の実体験を
何十年か後に振り返ってまとめたものです。


 イタリアで日本人がまだ珍しかった時代の話。
一人で移り住んで、現地の方と結婚し、色々な方との出会いと別れ・・・と
実際は波乱万丈な日々だったのだろうと思うのだけど、
須賀さんの丁寧な熟成された文章からは
ただただそれら1つ1つの出会いによせる深い想いのようなものが
ひしひしと伝わってきます。


 なんといったらいいか・・なかなかこういう文章には出会えないですね。
飾りたてている訳でもなく、簡潔な表現なのに深みがあるという・・。
あの時偶然テレビ見てよかったぁ。

トリエステには冬、ボーラという北風が吹く。夫はその風のことを、なぜかなつかしそうに話した。瞬間風速何十メートルというような突風が海から吹きあげてくるので、坂道には手すりがついていて、風の日は、吹きとばされないように、それにつかまって歩くのだという。「きみなんか、ひとたまりもない。吹っとばされるよ」と夫はおかしそうに言った。
 「ミラノ霧の風景・・きらめく海のトリエステ」より